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東大の英語ライティング〈自由英作文〉問題を徹底攻略!~求められる思考力・英語力を身につけよ~

2019.09.19

東京大学の入試における英語のライティング、特に自由英作文問題と聞けば、その難易度はきわめて高いと想像する人が多いでしょう。実際に、かなりハイレベルであることは事実ですが、使用すべき語彙のレベルや文量の多さといった点では、極端に高い英語力が必要というわけではありません。
そのユニークな出題形式と独特の「難しさ」に対応するために、まずは大学が課す問題の本質を掴み、求められる思考力・英語力を養う術を身につけてください。

1. 東大が初めて入試問題の解答・出題意図を発表

2019年春、東京大学は、入試問題の解答および出題意図を公表しました。
東大はこれまで、解答や解法を丸暗記して入試に臨むことを問題視していると明言しており、そのような勉強をする受験生は「東京大学が求める学生像と異なる」といった理由から、模範解答などは公表してきませんでした。
しかし近年、他大学で入試問題の作問ミスなどが相次いだことから、文部科学省が大学側に解答等の公表を求め、東大もそれに応じたのです。
東大が解答や出題意図を発表したのは初めてのことで、大きな注目を集めました。
英語(外国語)については大問ごとに出題意図が説明されており、英作文問題についても触れられています。東大の英作文対策を考える上で大いに参考になるため、まずはこの該当箇所を確認しましょう。

2.作文問題
【英語2(A)・2(B)[・・・略・・・]】
和文の外国語訳においては、日本語で与えられた情報を外国語で過不足なく、正確に読み手に伝える能力が試されています。自分の考えを外国語で表現する問題においては、自らの意見が読み手に明確に伝わるよう、適切な語句や表現を用いて、論理的で説得力のある文章を作成する能力が試されています
(『「外国語」の記述式問題の出題の意図及び「外国語(英語)」の記号選択式問題の解答』より

特に重要なのはマーカーで示した部分ですが、ここから分かるのは、東大英作文では、特に高度な語彙の運用能力や長文エッセイのライティング能力などは求められていないということです。
必要な力は、

  1. 相手への伝わりやすさ
  2. 英語の正しい運用能力
  3. 論理性

 という3点に要約されます。

2. 東大で出題される英作文の特徴

2-1. 過去の東大英作文の出題例

対策を立てるには、まずは「敵を知る」ことから始めなければなりません。
東京大学における直近10年の「英作文」出題内容を確認してみましょう。

2019年 2(A)新たに祝日を設けるとしたら、どのような祝日を提案したいか(60~80語)
2(B)和文英訳
2018年 2(A)『ジュリアス・シーザー』からの引用(40~60語)
2(B)和文英訳
2017年 2(A)自分が試験を受けているキャンパスについて気づいたことを述べよ(60~80語)
2(B)手紙の返信文を書け(60~80語)
2016年 2(A)写真(猫と人の指が映った写真)を見て、思うことを述べよ(60~80語)
(B)英文の第一段落、第二段落を読み、その結論に当たる第三段落を書け(50~70語)
2015年 2(A)イラスト(人が鏡を見ている。鏡の中の自分はあっかんべえをし、鏡を見ている自分は驚いている)を見て、状況を簡単に説明し、思うことを述べよ(60~80語)
2(B)相反する2つのことわざ"Look before you leap"と"He who hesitates is lost"について(60~80語)
2014年 2(A)写真(男性と女性が自動販売機の前に立っている。自動販売機のそばに犬が一匹いる)を見て、2人のダイアローグを自由に組み立てよ(50~70語)
2(B)People only see what they are prepared to see.という言葉について考えを記せ(50~70語)
2013年 2(A)写真(二人が木々を見ている。立っている女性が木の方を指し、男性は座って女性の指さす方を見ている)を見て、二人の会話を自由に想像し、書け(60~70語)
2(B)これまでに学んだことで最も大切だと思うことを書け(50~60語)
2012年 2(B)もし他人の心が読めたらどうなるか、考えられる結果について書け(50~60語)
2011年 2(A)ダイアローグ穴埋め(2カ所)(各15~20語)
2(B)It is not possible to understand other people's pain.という言葉について思うところを書け(50~60語)
2010年 2(A)全世界の人々が同一の言語を使用しているたら、人間社会や生活はどのようになっていたと思うか(50~60語)

まず、英作文は例年「大問2」で出題され、(A)(B)の2問に分かれています(年度によって例外あり)。
また、自由英作文問題の指定語数は最大で60~80語となっており、難関大学の出題としてはそれほど多くはありません
さらに注目してほしいのは、2018年と2019年に「和文英訳」が出題されているという新傾向です。2020年以降も確実に和文英訳が出題されるという確証はないものの、和文英訳の対策もしておく必要はあるでしょう
この記事では、自由英作文対策について取り上げますが、難関大学の和文英訳対策については、こちらの記事を参考にしてください。
>> 難関大学の和文英訳問題を攻略!3つの必須テクニックと対策に効く参考書・問題集

 2-2. 問われる英語力は極端に高くはない

東大で出題される自由英作文の難しさは、問われる英語力の高さにあるのではありません。東大以上にハイレベルな英作文を出題する大学はいくつかあります。
例えば国際教養大学は、例年300語以上の英文エッセイのライティング問題が出題されます。相当な対策トレーニングを積まなければ対応できない問題です。
また、東京外国語大学では、リスニングで聞き取った音声の内容を英文で要約するという問題が課されています。これは総合的な英語力が問われていると言えます。
京都大学では、きわめて英訳しにくく、文量も相当多い和文英訳が出題されることで知られています。他にも、難易度の高い和文英訳を出題する難関大学は複数あります。
これらの大学の英作文問題で高得点を取るためには、非常に高度な英語力が必要です。文量の多いライティングでは英文エッセイのスタイル(型)を身につけておく必要がありますし、和文英訳では課題となる日本語を正確に英訳するため、多くの語彙・表現を知っていなければなりません。
それに対し、東京大学の自由英作文問題では求められる学力の方向性が異なります。極端に高い英語力は求められないものの、別の理由で難易度が高くなっているのです。
では、その難しさは何に起因しているのでしょうか。

2-3. 求められるのは思考力や柔軟な対応力

まず、先ほど挙げた過去問を一見すれば分かるように、設問内容が非常にユニークです。
難関大学の自由英作文問題では、時事問題(少子高齢化、環境問題、最先端テクノロジーの功罪など)が取り上げられることが多く、そうした問題であれば、普段からテレビやインターネットのニュース、新聞などで目にする機会もあり、事前に対策を練ることもある程度可能です。
それに対して、例えば東大の、「自分が試験を受けているキャンパスについて気づいたことを述べよ」(2017年2(A))といった問題は、その場で考えて書くしかない、つまり内容に関して事前の対策ができない問題が意図的に出題されるという特徴があります。
しかも、単に事前対策ができないだけでなく、「何を書けばよいのか」を考えるのに非常に苦労するのも特徴です。
いきなり「新たに祝日を設けるとしたら、どのような祝日を提案したいか」(2019年2(A))や、「もし他人の心が読めたらどうなるか」(2012年2(B))などと聞かれて、即答できる人は少ないでしょう。
このように、東大の自由英作文は、英文の作成より「何を書けばよいか」を考える方が難しいという、稀有な特徴をもっていると言えるでしょう。これまでに考えたこともない問題であっても、その場で即座に考え、それを英語で表現する力が求められているのです。
また、抽象性の高いテーマが出題されることが多いというのも特徴の一つです。
以下のような過去の出題例が、これに相当します。

・相反する2つのことわざ"Look before you leap"と "He who hesitates is lost"について(2015年2(B))
・"People only see what they are prepared to see."という言葉について考えを記せ(2014年2(B))
・"It is not possible to understand other people's pain."という言葉について思うところを書け(2011年2(B))

抽象的なテーマが出題されると、それに対する答えも抽象的になりやすく、その際、読み手(採点者)に伝わりにくい不明瞭な英文を作ってしまいがちです。こうした点において、いかに上手に対応するかがポイントになってくるのです。

3. 東大で出題される自由英作文の対策

3-1. 応用の利く基礎力の習得

さて、東大の自由英作文問題の難しさの正体が分かり、その理由の1つは「事前に対策ができない」点にあることが見えてきました。
どんなテーマが出題されるかわからないのであれば、できる対策はただ1つ、どんな問題にでも対応できるような応用の利く基礎力を身につけることです。言い換えれば、「難しいことは書けないかもしれないが、シンプルなことなら間違えずに書ける」という力の習得を優先すべきです。
とりわけ、応用範囲の広い基本動詞(take, get, makeなど)を使いこなせるようにしておくことや、基礎レベルでよいので、幅広いボキャブラリーを偏りなく覚えておくことが有効な対策となります。当然、文法知識について抜け穴がないようにしておくことも大切です。
「そんなことでいいの…?」と不安になる人もいるかもしれませんが、これはそれほど簡単なことではありません英単語集を1冊か2冊、隅々まで覚えこむくらいの対策は必要です。

3-2. 伝わりやすさと論理性

ここでもう一度、大学側が発表した出題意図を思い出してください。
「自らの意見が読み手に伝わるよう、適切な語句や表現を用いて、論理的で説得力のある文章を作成する能力が試されています」とあるように、意味が不明瞭だったり論理性を欠いたりする文章は減点の対象になるということです。
この点を強化するのに最も適した対策は、添削以外にありません。適切な指導者に自分の答案について、「文意が明瞭に伝わるか」「英語として正しいか」の2点を厳しくチェックしてもらうことが、最良・最短の対策となります。
英作文の添削を通した勉強法については、こちらの記事もぜひ参考にしてください。
>> 大学受験の英作文・ライティング対策に役立つアプリと効果的な使い方

3-3. 日頃から「考える」習慣を

東大の自由英作文問題では、今まで考えたこともないようなことについて考え、それを即座に、かつ簡潔に表現する力が問われています
したがって、これまでに挙げてきた英作文スキルについての対策に加え、普段から身の回りのさまざまな事象について関心を持ち、それについて自分の頭で考えるという作業の習慣づけをお薦めします。
そのための素材は何でも構いません。日常生活で触れるあらゆる物事が素材になり得ます。
指定語数についてはある程度予測が立つ(最大60~80語)ので、日頃から自分の思うことを60~80語程度の英文で手早くまとめる練習は役に立つでしょう。
例えば、4コマ漫画を見て、そのテーマやあらすじについて英語でまとめる、というのはよくある練習法です。家で取っている新聞(もちろん日本語でOKです)に掲載されている4コマ漫画でもよいですし、自分が好きな漫画でもよいでしょう。
スヌーピーでおなじみの『ピーナッツ』シリーズ(角川書店など多数)は読みやすく面白いので、練習素材としても適しているでしょう。

4. まとめ

東京大学で出題される英作文を攻略するためのポイントを振り返ります。 

●東大の自由英作文問題で求められる3つのポイント
・相手への伝わりやすさ
・英語の正しい運用能力
・論理性

●東大の自由英作文問題が「難しい」理由
・事前の対策ができないテーマが出題される
・英文の作成より「何を書けばよいか」を考える方が難しい
・抽象性の高いテーマが出題されることが多い

●東大の自由英作文問題への効果的な対策
・どんなテーマにでも対応できるような、応用の利く基礎力を身につける
・添削指導を通して、文意が明瞭な正しい英文を書けるようにする
・普段から身の回りの様々な事象について、自分の頭で考える習慣をつける

東京大学の英作文・ライティング問題では、決してバイリンガルのような高度で流暢な英語の語彙や表現力が求められるのではなく、あくまでも高校で習った範囲の文法・語彙を用い、質問に対するシンプルな答えを、整理整頓された文章で書けるかが評価されます。
大学の考えや入試問題の本質を掴み、一見、荒唐無稽なテーマに見えても落ち着いて対応できるような心構えと、高校英語の知識をフル活用して解答用紙を埋められるようなスキルを身につけましょう。

岡本 眞一郎 先生(武南中学・高等学校)
1983年より都立高等学校英語教諭として、都立青山高等学校、都立戸山高等学校、都立白鴎高等学校、2014年より埼玉県立春日部高等学校、埼玉県立浦和高等学校と首都圏の進学校を歴任。2018年4月からは、埼玉県私立の武南中学校・高等学校で教鞭を執り、多くの受験生たちの指導に当たっている。