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【物理】大学の学びとどうつながっている?高校物理から大学物理のロードマップを作ってみた!

2023.09.11

大学で学ぶ物理に興味はありませんか?物理が好きな高校生でも、大学で学ぶ専門性の高い内容となると想像できないことも多いと思います。
「大学の物理って面白そう!…でもどんな内容かわからない」「大学で物理を専攻したらどんな授業があるんだろう」「今勉強している物理の内容って、大学の内容とどう関係するの?」――そんな疑問にお答えします!
大学で学ぶ物理について、東京大学の場合を例に全体像を解説した上で、高校で学習する各分野の延長線上にある領域と、高校の範囲から少し離れた専門分野について、高校物理と大学物理のつながり方をレクチャーします。また、物理を学ぶ大学生のリアルな時間割も紹介。大学で物理を勉強したいと考えているのであれば、一見の価値ありです。
きっと、今の受験勉強にもハリが出て楽しくなりますよ!

1. 大学で学ぶ物理はこんな感じ!

1-1. 1~4年生までの流れ

物理学部に入学したとして、すぐに専門科目の勉強が始まるわけではありません。1・2年生では基礎科目を学ぶのが一般的です。
例えば東京大学では、1年生のうちは全学部共通の教養科目と、「力学」「熱力学」「電磁気学」といった物理の基礎科目、「線形代数」「微分積分学」などの数学科目が課されます。
実験の授業は多くの大学では2年生から始まりますが、東京大学など1年生の後期から始まる大学もあります。実験で得られたデータについて誤差を評価し、予想した値が誤差の範囲に収まっているかを確かめて、実験がうまくいった、もしくはうまくいかなかった理由を考察します。予習や事前のデータ処理などやらなければならないことがたくさんあり、実験の授業はかなりハードです。
3年生は1・2年生の内容を踏まえたより発展的な内容について学びつつ、卒業研究・論文を意識した勉学に励む時期です。4年生になったら卒業研究や就職活動、もしくは大学院の試験があるので、3年生までに授業を多めに履修しておき、4年生の時に取る授業を少なくしておいたほうがいいでしょう。(大学では基本的に、履修する授業の内容や時期を自分で決めます)
研究室に配属されるのは、東京大学理学部の場合は4年次です。人気の研究室に希望通り配属されるには良い成績が必要になるので、行きたい研究室の志望者が多いようであればどの授業もおろそかにはできないでしょう。

1-2. 物理の基礎となる新たな「数学」

大学では、物理の計算に「微分・積分」を使うのが当たり前になったり、今の高校生にはあまりなじみのない「線形代数」の知識・計算力が必要になったりと、数学の知識や理解も求められます。「物理に興味があって入学したけど、数学には自信がない…」という場合もあると思いますが、大学の授業では高校で習った公式を微分・積分を含んだ形で捉え直す・定義し直すところから始めることが多いので、授業をきちんと聞いていれば心配ないケースがほとんどです。
これら数学の知識は、物理を深く学ぶ上で非常に重要な道具となります。道具をきちんと使えていなかったり道具が足りていなかったりすると、目標は達成できません。発展的な内容を学ぶためにも、大学1・2年次の数学の基礎科目はしっかり押さえておきましょう。

2. 高校から大学につながる物理ロードマップ

高校で習う「力学」「熱力学」「波動」「電気と磁気」「原子」の5つの分野と、高校の範囲から少し離れた「その他の専門分野」に分けて、大学物理との関連性を紹介します。

2-1. 力学

高校生で学ぶ運動方程式や慣性の法則を基にした力学のことを、「ニュートン力学」と呼びます。
「ニュートン力学」の問題を解く際は「デカルト座標」か「極座標」か、座標のとり方について考える必要がありますが、「解析力学」ではその必要はありません。「解析力学」では、運動方程式の代わりに「オイラー=ラグランジュ方程式」を用います。

オイラー=ラグランジュ方程式ではどのように座標をとってもよいです。またオイラー=ラグランジュ方程式は「最小作用の原理」と等価(同じ意味)なので、「解析力学」では代数の計算で物理の問題を考えることが多いです。

しかし、「電磁気学」のマクスウェル方程式の発見により、「ニュートン力学」に矛盾が生まれることになります。例を挙げると、「ガリレイ変換」(ニュートン力学で用いる慣性系の変換)でマクスウェル方程式は不変でなく、マクスウェル方程式が一般の慣性系で成り立たなくなってしまう、という問題が発生しました。こうした問題を解決するために生まれたのが、「量子力学」「相対論的力学」です。現在では、「ニュートン力学」は光速よりも十分遅い運動をマクロな視点で考える範囲で、矛盾の無い理論と位置付けられています。
「量子力学」では、「シュレディンガー方程式」をもとに「波動関数」について考えていきます。

「ニュートン力学」では実在する物体の運動を考えるのに対し、「量子力学」では問題になっている粒子がどの領域にどれくらいの確率で存在するかを考えます。波動関数の絶対値の2乗をとると(波動関数は複素数であるため)、粒子が存在する確率を表す関数になります。半導体を利用する電子機器の設計などは、量子力学の理論を基礎としています。また、超伝導に関する理論も量子力学を応用したものであり、そういった分野の工学について興味がある場合は勉強しておくべき分野です。
「相対論的力学」は、先ほど述べたガリレイ変換の問題を解決するための「ローレンツ変換」からスタートしていきます。ローレンツ変換では、位置座標系に「時間」(固有時)を加えた4元ベクトルを変換します。

「相対論的力学」では「共変テンソル」「反変テンソル」といった、線形代数を基礎知識として必要とする概念がたくさん出てきます。
大学の勉強では覚えきれないくらい多くのことについて学びます。分からないところ・忘れてしまったところがあったら、定義の確認をして復習をこまめにすることが大切です。これは高校の勉強する時にも大切なことなので、高校生のうちにこまめに定義の確認・復習をする習慣をつけておきましょう。

〈力学ロードマップ〉

力学⇒解析力学→量子力学→相対論的力学

2-2. 熱力学

高校の「熱力学」では、主に熱力学基本法則のうち第1法則(エネルギー保存則)に注目して気体がどういう状態にあるか考えていきますが、大学では「エントロピー」の観点から熱力学についてより深く学びます。よく「物質を構成する粒子の乱雑さ」と説明されるエントロピーですが、この概念の導入により、熱力学第2法則を「エントロピー増大の法則」として捉え直すことができます。
熱力学の授業は大学1年生で始まりますが、理解するのがかなり難しい分野となるでしょう。エントロピーだけでなく、「エンタルピー」や「ギブス自由エネルギー」「ヘルムホルツ自由エネルギー」などの概念がたくさん出てきますが、「ルジャンドル変換」の形をよく見て、変数の間に成り立っている偏微分の関係式を導出することで、変数・文字がどうつながっているか確認できます。
「熱力学」が原子や分子が発見される前からかなり確立された分野だったのに対して、「統計力学」は原子や分子の理論の成立によってミクロな部分で成り立つ法則を基に、マクロな部分について取り扱う分野としての側面があります。目に見える変化が起こらない平衡系について扱う学問体系だけでなく、非平衡系について扱う「非平衡統計力学」などさまざまな分野に細分化され、今も研究が進んでいます。

〈熱力学ロードマップ〉

熱力学⇒統計力学→非平衡統計力学

2-3. 波動

「振動波動論」という授業や教科書では、高校で習った物体の振動、または光・音などの波について、三角関数や複素数を用いて計算しながら考えていきます。
高校の範囲では1つの物体の振動について注目しましたが、大学で学ぶ知識があれば2個や3個の質点、さらにはn個の質点の連成振動について計算できます。線形代数や微分積分、複素数などたくさんの数学の知識を総動員する分野です。カリキュラム上必修科目でないことが多いですが、物理と数学の関わりを密接に感じられる面白い分野です。
また、光や音に注目して掘り下げていく「光学」「音響学」などがあります。どちらも工学に応用される分野です。身近な例を挙げると、「光学」ではカメラや光学顕微鏡など、「音響学」ではオーディオ機器などに関連があるので、興味がある場合は専門的に学べる大学について調べてみてください。

〈波動ロードマップ〉

振動・波動⇒光学

     ⇒音響学

2-4. 電磁気学

大学の「電磁気学」では、マクスウェル方程式を基礎としてさまざまな現象について学んでいきます。

高校物理の「電磁気学」では、さまざまな種類の問題を解くためにたくさんの公式を覚える必要がありましたが、マクスウェル方程式を用いてそれぞれの問題に対してどう応用するかを身に付けていれば、公式はほとんど覚える必要はありません。高校で習った現象がどういった原理で起きているか、それぞれの現象がどう関係しているか、よく理解できるようになる面白い分野です。
力学の章でも述べましたが、マクスウェル方程式によると真空中の電磁波の速度は慣性系によらず(光速度不変の原理)、これは実験でも示されています。このことからアインシュタインが確立させていったのが、「特殊相対論」です。特殊相対論は慣性系について取り扱う学問であり、「一般相対論」に包含されています。履修内容は先ほど相対論的力学で触れた内容と重複しますが、相対論はマクスウェル方程式と矛盾しないように構築されている、ということを押さえておきましょう。

〈電磁気学ロードマップ〉

電磁気学⇒特殊相対論→一般相対論

2-5. 原子

高校物理の「原子」分野では、原子の構造や原子を構成する素粒子があること、素粒子間にはたらく4つの力である強い力・弱い力・電磁気力・重力を学習します。大学では、高校で習ったことをさらに掘り下げる専門分野が勉強できます。
原子の構造や、原子と電磁波・放射線との相互作用について研究する「原子物理学」、さまざまな理論を用いて素粒子について明らかにする「素粒子物理学」、強い力(強い相互作用)に従う粒子の多体問題を取り扱う「原子核物理学」などの分野があります。
粒子加速器を用いた実験がおこなわれている分野であり、ミクロな部分を明らかにするために大規模な装置・大きなエネルギーを使って実験することにロマンを感じます。

〈波動ロードマップ〉

原子⇒原子物理学

  ⇒素粒子物理学

  ⇒原子核物理学

2-6. その他の専門分野

高校物理の内容からさらに発展した物理現象について取り扱う専門分野を、少しだけ紹介します。
高校の「力学」では、運動する物体について大きさを持たない質点として考えたり、変形しない剛体として考えたり、基本的には近似をして計算します。これに対して、「連続体力学」では物体について大きさを持つ連続体として捉え、力が加えられることによって変形することを考慮します。
主な連続体として、圧力を取り除くと元の状態に戻ろうとする「弾性体」と、気体・液体などの「流体」の2つがあります。また、流体が静止している状態や運動している状態での性質や、流体の中での物体の運動を研究する「流体力学」があります。どちらも多くの工学の分野に応用されています。
「物性物理学」は、量子力学や統計力学を基盤としてマクロな視点で成り立つ性質をミクロな視点で研究する分野です。半導体の分野ではさまざまなデバイスに応用され、今後も工学への応用が期待されています。
「天文学」は、主に位置天文学・天体力学・天体物理学の3分野に分類できます。宇宙には多様な天体が存在しており、その成立条件・成立過程はまだまだわかっていないことが多く、新しい現象を予測するためのモデルを構築する理論天体物理学などで研究が進んでいます。

ここまで紹介した専門分野の他にも、多くの専門分野があります。気になる分野があれば、その分野が学べる大学・学部について調べておきましょう。

3. 物理学部生の時間割を紹介!

まず紹介するのは、理学部物理学科に所属している先輩学部生の3年生・前期の時間割です。

 
1限       解析数理工学 幾何学
2限 電磁気学 量子力学 計算機実験 統計力学 流体力学
3限 物理学実験 物理学演習 物理学実験 物理学実験 物理学演習
4限 物理学実験 物理学演習 物理学実験 物理学実験 物理学演習
5限 物理学実験   物理学実験 物理学実験  

月・水・木曜日の「物理学実験」は大体隔週でおこなわれるそうですが、3限から5限まで午後いっぱい時間を使う長丁場の授業でなかなかハードです。週に平均して4.5コマ分実験の時間があることになり、3年次にいかに本格的に実験に取り組むか、よくわかると思います。
数学の知識を学ぶための「解析数理工学」「幾何学」、物理の基礎科目である「電磁気学」「量子力学」など、幅広い分野の授業を履修しています。これは、4年次や大学院進学時により専門的な分野を学ぶために必要となるため。先を見据えて科目を履修することも大切です。
また、水曜2限の「計算機実験」は、物理学の研究に必須なコンピュータについての授業です。これらの授業を受けた上で4年次に進む研究室を選択し、自分の研究テーマを決めていきます。

一方こちらは工学部物理工学科に所属する先輩学部生の、3年生後期の時間割。

 
1限 材料組織学 量子物理学     材料強度物性
2限 エネルギー・材料熱化学 量子無機材料学 材料分析化学 金属材料学 結晶回折学
3限 高分子材料概論 統計熱力学 材料科学実験・演習 材料科学実験・演習 固体物性論
4限     材料科学実験・演習 材料科学実験・演習  
5限          

3年生ですが専門科目がかなり多いです。「専門分野」の章で触れた物性物理学とその基盤となる物理学、また、大学院で研究する領域につながる応用分野の授業で構成されています。大学の実験では授業前の予習、実験後の考察が必須。どちらも時間と労力がかかるので、こまめに実験の課題をやっておくことが大切です。

進学した学部・学科によって受けられる授業は大きく異なり、また、専門科目を深く学ぶか、幅広い分野を勉強するかによっても違ってきます。大学を選ぶ際は、どんな授業を受けられるのかよく確認しましょう。

4. まとめ

大学で学ぶ物理の全体像や、高校の分野とのつながり、物理学部生の先輩たちのリアルな時間割を紹介しました。高校で勉強する物理の内容が大学で学ぶ内容とどのようにつながるのかを知ることで、今の勉強により熱が入ると思います。
この記事で説明した内容は、各分野のほんの一部にすぎません。興味を持った分野について、ぜひ学校の図書館や書店で関連する書籍を探したり、どの大学・学部ならその分野を勉強できるのか調べたりしてみてください。きっと新しい世界が広がっているはずです。
勉強の合間に大学のシラバスを確認したり、通っている大学生がどんな時間割で勉強しているのか調べたりするのも、受験勉強を頑張るモチベーションになります。大学生になってからの生活を想像しながら、興味のある分野への理解を深めてくださいね!

StudiCoサポーター I.T.
東京大学 理科一類 合格