履修範囲に抽象的な内容が多くなりがちな、高校物理の「原子」分野。手が回らない受験生も多いようですが、近年の共通テストでは出題頻度が増えて重要度は高くなっています。
大学入試に向けた対策を効率的に進めるために、「原子」分野の特徴と勉強法、各単元のポイントをわかりやすく解説し、あわせて各学習段階に応じたおすすめ参考書も紹介します。
1. 「原子」のポイント
1-1. 電子と光
(1)電子
真空管に電極を取り付け高い電圧をかける実験で、陰極から光のようなものが出ていることが分かり、それを「陰極線」と呼びました。電場や磁場によって曲げられることや他のいくつかの性質から、陰極線は負電荷をもつ粒子、電子の流れであることが分かりました。
J.J.トムソンの実験によって電子の電気量と質量の比「比電荷」が測定され、ミリカンの油滴の実験によって1個の電子が持つ電気量の絶対値「電気素量」が測定されました。特に比電荷の計算について、電場や磁場によって電子線が曲げられる問題は頻出ですので必ず押さえておきましょう。
(2)光の粒子性
金属に光を当てると、金属の表面から電子が飛び出す現象を「光電効果」と呼び、光電効果を起こすための光の最小のエネルギーを「仕事関数」と呼びます。光を波動として考えるのではなく粒子として考え、1個の光子のエネルギーが1個の電子に渡されたと考えると説明できます。
(3)X線
紫外線よりさらに波長の短い電磁波をX線といい、19世紀にレントゲンによって発見されました(骨折した時などに「レントゲンを撮る」というのは、X線を利用した撮影を彼の名前を借りて呼んでいるためです)。
X線の波長は非常に短く、結晶で規則正しく並ぶ原子の間隔と同程度であるため、結晶が回折格子としてはたらきX線回折を起こします。
2つのX線の道のりの差2dsinθが波長の整数倍になるとき、2つのX線は強め合います。これを「ブラッグの条件」といいます。原子間隔の分かっている結晶を使ってX線回折の実験をすると未知のX線の波長が求められ、逆に波長の分かっているX線を用いれば結晶のいろいろな平衡面の間隔が分かり、結晶構造を調べることができます。
X線が粒子性を示す例として重要なのがコンプトン効果です。物質によって散乱されたX線の波長がもとのX線よりも長くなる現象で、これはX線を波動として考えたのでは説明できません。
重要なのは光子も運動量を持つという点です。コンプトン効果はそのまま問題として出題されることもあるので要チェックです。
上の3つの式から、vとθを消去してλ≒λ’とすると4つ目の式を導くことができます。教科書などを参考にして一度自分で計算すると身につくでしょう。
(4)粒子の波動性
光やX線などの電磁波が波動としての性質だけでなく、粒子としての性質をあわせもつことを粒子と波動の二重性といいます。ド・ブロイは逆に粒子と考えられている電子などにも波動性があると考え、粒子は次の式で与えられる波長の波としての性質をあわせもつと仮定しました。
このように物質としての粒子が波動としてふるまうときの波を物質波といい、特に粒子が電子のときの波を電子波といいます。
1-2. 原子と原子核
(1)原子の構造とエネルギー準位
ラザフォードは散乱実験の結果から、「原子は正電荷をもつ原子核と、その周囲を回る電子とからなる」というラザフォードの原子模型を考案しました。しかし、従来の電磁波の理論では原子核のまわりを回転する電子は電磁波を放射し、エネルギーを失ってしまいます。その結果、電子の軌道半径は小さくなっていくのでラザフォードの原子模型では安定な原子とならないことが問題でした。
ボーアは水素原子のスペクトル系列に注目し、次の仮説を立てて水素原子について理論をつくりました。まず、軌道の1周の長さが電子波の波長の整数倍になるとき原子は定常状態になり、定常状態では電磁波を出さないという量子条件を立てると、軌道半径はとびとびの値をとり、定常状態での電子のエネルギーもとびとびの値になります。この離散的なエネルギーをエネルギー準位といいます。
また、電子はエネルギー準位の差のエネルギーをもつ光子を放出または吸収することで異なるエネルギー準位にうつることができます。最も低いエネルギーとなるエネルギー準位を基底状態といい、それよりエネルギーが大きいエネルギー準位を励起状態といいます。
(2)原子核
原子は原子核とその周囲を回る電子で構成されています。原子核は原子の10万分の1程度の大きさであり、正の電気量をもつ陽子と電気をもたない中性子で構成されています。陽子と中性子を総称して核子といいます。
元素(原子の種類)は原子核に含まれる陽子の数で決まり、その数を原子番号といいます。また、核子の総数を質量数といいます。核子どうしは静電気力よりはるかに強い核力で引きあっています。
同じ元素でも中性子の数が異なる原子のことを同位体といいます。例を挙げると、水素には天然に3つの同位体があります。自然界に最も多く存在するのは原子核が陽子1つのみで構成される水素で、存在比は99%以上です。重水素は原子核が陽子1つ中性子1つからなり、0.01%程度存在します。三重水素は原子核が陽子1つ中性子2つからなり、主に宇宙線と大気の相互作用で生成されます。
(3)放射線とその性質
放射線にはα線、β線、γ線の3種類があります。α線は大きいエネルギーを持つヘリウムの原子核、β線は大きいエネルギーをもつ電子、γ線波長が短い電磁波であり、α線とβ線が電荷をもつことから3つの放射線は磁場の中でそれぞれ異なる進み方をします。
α線が放出される時(α崩壊)、原子核から陽子2個と中性子2個がヘリウムの原子核として出ていくので、原子核は質量数が4、原子番号が2小さい原子核に変わります。β線が放出される時(β崩壊)、中性子が陽子に変化する際に電子が飛び出すので、原子核は質量数が同じで原子番号が1大きい原子核に変わります。
原子核が崩壊によって他の原子核に変わるとき、元の原子核の数が半分になるまでの時間はそれぞれの時間で決まっており、この時間を半減期といいます。
《コラム ~炭素の放射性同位体による年代測定~》
炭素の同位体C14は不安定でありβ崩壊によって窒素に変わります。逆に大気中では窒素の原子核に、宇宙からの放射線によって生じた中性子が衝突してC14ができるため、大気中の二酸化炭素に含まれるC14の割合は一定に保たれています。そのため、光合成によって二酸化炭素を取り込んでいる植物のC14の含有率も大気と同じく一定です。
植物が枯れたり伐採されたりするとC14は取り込まれなくなり、半減期約5700年で減少していきます。それを利用して遺跡などの木材に含まれるC14の含有率を調べることで、遺跡がいつごろ作られたものかを知ることができます。
(4)核反応と核エネルギー
反応の前後で原子核が変わる反応を核反応といいます。一般に核反応では反応の前後で質量数の和と電気量の和は一定に保たれます。原子核の質量は、それを構成する核子の質量の和よりも小さく質量欠損があります。質量欠損の意味はアインシュタインの相対性理論によって明らかにされました。
陽子と中性子がばらばらで存在する時よりまとまって原子核を構成している時のほうがエネルギーが小さいことになり、逆にこの原子核をばらばらの核子にするためにはエネルギーを与える必要があります。この意味で、質量欠損をエネルギーに変換したものを結合エネルギーといいます。
核反応で原子核の質量の和が減少する時、その質量差に相当するエネルギーが核エネルギーとして解放されます。核反応で解放されるエネルギーは、化学反応で発生するエネルギーと比べて非常に大きいのが特徴です。
原子力発電は核分裂によって発生した熱を利用してタービンを回して発電する方法です。また、太陽などの恒星は核融合反応からエネルギーを得て輝き続けています。
(5)素粒子
物質を細かく分けていくと、分子、原子、原子核といった構成単位が現れます。これを自然の階層性といい、その究極に位置する粒子を、物質を構成する基本的要素と考えて素粒子といいます。素粒子について入試で出題されることはほとんどありませんが、現在も研究が進められている非常に興味深い分野です。
2. 原子の勉強におすすめの参考書7選
2-1. 定期テスト対策レベル
『宇宙一わかりやすい高校物理 電磁気・熱・原子 改訂版』(Gakken)
公式を分かりやすく説明するために図やイラストがふんだんに使われていて、「原子」分野を初めて勉強する際にも楽しく取り組めるようになっています。
別冊で問題集が付いていますが問題数自体は少ないため、物理現象や公式を理解するための参考書として使用しましょう。
漆原晃の物理基礎・物理〈波動・原子〉が面白いほどわかる本 : 大学入試
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『改訂版 漆原晃の物理基礎・物理〈波動・原子〉が面白いほどわかる本 : 大学入試』(KADOKAWA/中経出版)
公式の導出過程から問題を解くためのポイント、さらに演習問題を解説した構成になっています。特に問題を解くためのポイントには重要な視点が簡潔にまとまっていて、問題を解けるようにする参考書としておすすめの1冊です。
2-2. 大学入試 基本問題レベル
『大学受験Doシリーズ 漆原の物理 明快解法講座 五訂版』(旺文社)
入試問題の頻出パターンについて、どんな解法を使えばよいかがすぐ分かるようにまとめられています。総合的な問題について解説されているので、演習を通して各単元の要素が絡んだ複雑な問題を解けるような力が身に付くでしょう。
公式についてはある程度定着していることが前提になっているので、「公式を覚えているけれど実際の問題を前にすると行き詰まってしまう…」という場合におすすめです。
『物理のエッセンス[熱・電磁気・原子]-五訂版』(河合出版)
シンプルにまとまった図と丁寧な文章の両方で、例題が解説されているのが特徴です。始めにまとめられている解法の見通しを意識しながら解法を身に付けるのが、おすすめの使い方です。
受験生のよくある疑問にも触れているので、基礎事項の理解を深めることもできます。
2-3. 大学入試 応用・発展問題レベル
『物理[物理基礎・物理] 標準問題精講 七訂版』(旺文社)
実際の入試問題を収録した問題集です。解答・解説が見やすくまとまっており、各問題の解説の始めには、使用する公式やミスしがちな気を付けるべき注意点、設問にまつわる物理的な本質の部分にまで触れられています。
「原子」だけでなく物理の他の分野も、この1冊でまんべんなく勉強できます。
その他に大学入試対策レベルの問題集として、次の2冊をおすすめします。
『良問の風 物理 頻出・標準 入試問題集 三訂版』(河合出版)
『名問の森 物理[波動II・電磁気・原子] -四訂版-』(河合出版)
これらの参考書は以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
>> 【単元総まとめ】「力学」分野の勉強法とレベル別おすすめ参考書7選
3. まとめ
高校物理「原子」の特徴と各単元のポイントを解説しました。
共通テストでは「原子」に関連する問題がよく出題されるようになり、用語などの基礎的な知識と典型的な問題の解法を押さえておくことが必要になりました。高得点を取るには、問題演習だけでなく教科書をよく読んで用語や根本的な考え方をしっかり身に付け、応用力を養うことが重要になります。
これまで勉強してきた高校物理の集大成となる分野なので、他の分野と関連付けながら楽しんで勉強しましょう!