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【小論文】河合塾講師・大田裕二先生に聞く!大学入試の小論文対策とおすすめ参考書

2023.09.05

総合型・学校推薦型選抜の広がりも受けて、大学入試で課される機会が増えてきた「小論文」。一方で、「どう対策すれば良いかいまいちわからない…」というケースも多いのではないでしょうか。
そこで、河合塾 国語・小論文科の人気講師・大田裕二先生に、StudiCoサポーターがインタビューを敢行!大田先生は中高一貫校で国語科の指導経験もある、まさに大学入試小論文のプロ。おすすめの勉強法や対策スケジュールの目安に加え、受験生がやりがちな「実は効果の薄い対策法」までお話をうかがいました。旺文社刊行の参考書『短期完成 受かる11メソッド 小論文の書き方の著者でもある大田先生が薦める、手元に置いておきたい書籍も必見。小論文対策に関する疑問を、この記事で解消しましょう!

1. 小論文ってどうして入試で課されるの?

具体的な対策についてうかがう前に、小論文入試の背景についてお聞きしたいと思います。そもそも、なぜ大学入試で小論文が課されるのでしょうか?

-大田先生:
「思考力・判断力・表現力」「多様な学び」が重視されているから、というのが大きな理由です。「思考力・判断力・表現力」というのは、現在施行されている学習指導要領の大きな柱の1つで、高校生に身につけてほしい大切な要素とされているもの。また近年は、1つの学力指標だけで選抜するのではなく、「多様な学び」として、さまざまな視点を入試に取り入れることが大学側に求められています。
このような背景から、従来の形式の学力試験だけでなく、色々なジャンルのテーマを提示した上で、高度な論理的思考力が測れる〈小論文〉が課される入試が増えているようです。いわゆる、総合型・学校推薦型選抜の増加ですね。

――なるほど、評価の指標にバリエーションを持たせるためなのですね。さまざまな視点で評価されるということですが、具体的にどのような力が見られているのでしょうか?

-大田先生:
ひと言で言うと、「高校生活の中で、どれだけ自分で考えて学んできたか」ということですね。地域の活動や部活動など、学校の勉強以外で取り組んだことや関心を持って行動したこと、価値観の違う人との出会いなどがその人の知識や考えの基になります。文章が上手・下手といった単なる文章力だけではなく、経験に基づいて考える力も見られています
とはいえ、学業以外の活動に積極的に取り組めるのは高校1・2年生くらいまでで、受験生になると入試対策としての小論文の知識も必要になるんですけどね。

2. 対策はいつ・何をすれば良いの?

2-1. 高3の4~7月を目安に本格スタート

高校生活で学業以外の経験を積むことも大切なのですね。高校1・2年生までと受験学年になってからではやるべきことも変わってくるようですが、本格的な小論文対策はいつから始めれば良いのでしょうか?

-大田先生:
これは目指す大学や選抜方法で変わってくるので、人それぞれです。ただ、受験する大学を決めるのは高3の7月あたりということが多い。そこで小論文を入試で使うかどうかも決まるから、その頃から始める人が多い印象です。

高3の夏!……てっきりもっと早くから始めておかないといけないのかと思っていたので、ちょっと安心しました。

-大田先生:
もちろん高校1・2年生のうちから始められる対策もあります。ただ、国公立大学の学校推薦型・総合型選抜を受ける人が本格的な対策として始める場合、高3の7月からなら十分に対策可能です。当然、個人差はありますが。とはいえ、学校推薦型の場合は「学習成績の状況」、つまり高1からの評価が必要だから、小論文だけの話ではないんですけどね。
早稲田大学、慶應義塾大学をはじめとした、レベルの高い私立大学の総合型選抜を受ける場合は、早ければ9月に選抜試験がありますので、そのような出願時期が早い選抜方法で受験するとなったら、7月ではちょっと遅い。高3の4月あたりには対策を始めておきたいところです。
繰り返しますが、いつから始めれば良いのかはその人や目指すレベルによって異なります。これらの時期はあくまで目安なので、自分にはどのくらい時間が必要か見極めてくださいね。

目指すレベルや自分の力によっては、これ以降に始めて間に合う可能性もあるのですね…!少し希望が持てそうです。逆に、「この時期に始めれば絶対大丈夫」ということでもなさそうなのが、小論文の奥深いところです…。

2-2. 必要なのは「読解力」と「具体化力」 

では、本格的に対策を始める頃になったらどんなことをすれば良いでしょうか?

-大田先生:
まずは自分の受験する大学・学部の試験について、どんな形式で出題されるのかを調べること小論文とひと言で言っても、問題形式にはいくつかパターンがあります。
最も出題されることの多い「課題文型」では課題文が与えられ、説明問題と見解論述が課されます。
説明問題は、課題文に「どんな内容が書かれているか」や「書かれていることの根拠」を説明する問題のこと。文章の読解力が必要です。
見解論述は、自分の考えを述べる問題。一般的に小論文と聞くと、この問題形式を思い浮かべる人が多いと思います。この問題では、筆者の考えではなく自分の考えを述べなくてはなりません。課題文に結び付けて自分の意見を書くには、その背景にある世の中の具体的な出来事について知っておいた上で、情報を具体化しなければなりません
つまり、「課題文型」の小論文問題を解くには、

①課題文を読解する力(=現代文で求められる力と同じ)

②世の中で起きている出来事の知識を基に情報を具体化する力

――この2つが必要です。
読解力は現代文の対策をする中でもある程度身につけることができます。問題は、世の中の出来事について知っておき、それを課題ごとに具体化するための対策ですね。

読解力をつけるのはなんとなくできそうですが、具体化となるとどんな練習をすれば良いのかイメージが沸きません……どうすれば良いのでしょうか?

-大田先生:
まずは世の中の出来事の「具体例」を知っておく必要があります。本を読むことが王道ですが、なかなか時間が取れませんよね。そこで、例えばテレビのニュースやドキュメンタリー番組を視聴することも、世の中で起きている色々な出来事を知ることができるので、十分な対策になります。生徒会活動や部活動など、高校生活の中で様々な人と関わり、自分の意見を持つという経験も、具体化に活かすことができます。
また、受験生としておすすめなのは、入試問題の課題文を読むことです。これによっても、知識や見識を広げて自分の意見を持つことが可能になります。

2-3. ネタ本ではなく“課題文”を使うべし

まずは知識を得ることが大切で、そこから自分の意見を持つということですね。「課題文を読むのがおすすめ」とのことですが、いわゆる“ネタ本”(※)のようなものもある中で、どうして課題文が良いのでしょうか?

※「ネタ本」……小論文に出題されるテーマや頻出の用語が解説されている参考書のこと。

-大田先生:
“ネタ本”では世の中の出来事について事実の部分だけしか説明されていないので、それだけでは実際の論述に活かせません。自分の意見を論述するには、その出来事に対してどういう意見があって自分がどう考えるかといった、事実に対する「解釈」の部分が大事になってくるからです。さまざまな意見がありますが、「見解論述にはネタ本に載っている情報だけでは不十分」というのが私の考え。
一方で、課題文には事実だけでなく筆者の意見が含まれるので、そういった文章をたくさん読むと自然と「解釈」の引き出しが増えていきますしかも、入試に出される文章というのは、大学の先生が「受験生に読ませたい!」と思った本の一部であることが多いので、重要な情報が凝縮されています。むやみにネタ本を読み漁るより課題文を読む方が、費用対効果が高いと思います。

2-4. 意見をまとめる練習には入試問題が最適

確かに、課題文として入試に出されるくらいなので、質の高い情報が詰め込まれていそうですね。
見解論述には「解釈」が必要ということでしたが、自分なりの解釈ができたとして、実際に自分の意見をまとめるにはどんな練習をすれば良いですか?

-大田先生:
学年によって異なります。高1・2年生は、まだ入試まで時間がありますから、それほど焦る必要はありません。例えば「現代の国語」や「論理国語」の授業で、新聞の要約や意見文を書くことがありますが、それも1つの対策です。また、「総合的な探究の時間」に取り組むレポートなども、小論文につながる1つの勉強といえるでしょう。
受験勉強をしている高3生は、入試に出た問題や参考書の予想問題を解くのがおすすめ。課題文には重要な情報がたくさん含まれていますし、それに対する意見の持ち方も、問題を解くことで学べますからね。
ただしこの時、1つの解いた問題に対して深く考察し、自分の答案を丁寧につくって磨いていくといった姿勢が大切です。

2-5. 過去問をやり込んでも意味がない!?――効果の薄い対策法とは…

有効な対策法がある一方で、あまり効果がない方法もあると思います。受験生が小論文の入試対策で陥りがちなミスにはどんなものがあるでしょうか?

-大田先生:
受験生がやりがちな小論文対策で、効果が薄いと思われるものは主に3つあります。

•ネタ本の丸暗記

•志望校の過去問をやり込む

•色々な問題を解きまくる

――これらが代表的なものですね。

ええっ!過去問をやり込むのってダメなんですか…!?

-大田先生:
はい、小論文の対策としてはいまいちです。小論文の問題には現代の社会問題を取り上げることが多いので、トレンドがあるんです。さらに、一度出された文章は同じ形で二度と出題されないと思って良い。例えば志望校の過去問を10年分解いたとして、その文章やテーマがこれから受ける入試に出題される可能性ってほとんどないですよね。

確かに…。一般的に試験対策と言えば過去問をやり込むのが定石なので、小論文も同じように考えていました。でも、言われてみると小論文で同じ問題が出ることは少ないですよね。

-大田先生:
そうですね。ただ、過去問演習は、その大学・学部の出題形式や制限時間に慣れることにおいては効果を発揮します。小論文対策の最後の仕上げ程度に使うのが良いでしょう。
その他、「ネタ本の丸暗記」については先ほど述べた通り。ネタ本は事実を述べているだけなので、それだけ暗記しても意味がありません。大切なのはどう考えるかという「解釈」です。
「色々な問題を解きまくる」というのも、実はちょっと違います。数をこなすことで書くことに慣れるという効果はありますが、見直しや復習をしないで未消化のままにしておくと意味がない。答案を書いたら添削や自己採点で問題点を認識し、もう一度書いてみるという復習のプロセスを踏まないと力はつきません

3. 小論文対策におすすめの参考書は?

3-1. 精度の高い予想問題で自己採点できる

ただやみくもに問題を解くだけではダメということがわかりました。問題選びや、解いた後に復習することが大切ですね。
では、そのような適切な対策ができる参考書があれば教えてください!

-大田先生:
小論文は現代の社会問題をテーマにすることが多く、トレンドがあります。そういった意味で、実際に入試に出されそうな課題文を選んだ短期完成 受かる11メソッド 小論文の書き方』(旺文社)は、問題演習に向いていると思います。加えて、答案を自己採点できるよう採点基準を載せているのもポイント
基本的に小論文は自己採点が難しく、先生に見てもらわないといけないですが、この本は1人でも問題演習から採点、復習ができるよう各問題にわかりやすく採点基準を設けてあります。解答例も、よくある「こんな文章書けない!」というような難しい内容ではなく、「このくらいなら書けるかも」というレベルで作ってあるので、リアルな入試問題対策として使えると思います。

『基礎編』の他、分野別のシリーズもあるので該当する学部を受ける人はチェックしてみてください。
短期完成 受かる11メソッド 小論文の書き方 医療・看護編』(旺文社)
短期完成 受かる11メソッド 小論文の書き方 人文・教育・社会科学編』(旺文社)

短期完成 受かる11メソッド 小論文の書き方 基礎編 短期完成 受かる11メソッド 小論文の書き方 基礎編
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大田裕二
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3-2. 点が取れる答案の書き方を学ぶ

本番に出そうな問題を使って、自分で演習を完結できるのは便利ですね。
他におすすめの参考書はありますか?

-大田先生:
小論文をどう書いていいかわからない人には、『全試験対応! 直前でも一発合格! 落とされない小論文』(ダイヤモンド社)がおすすめです。やりがちなミスが載っているので、事前に答案作成のイメージを掴むことができます。大学入試だけでなく公務員試験などにも有用。
もっと大学受験対策向きのものだと、『採点者の心をつかむ 合格する小論文』(かんき出版)も良いと思います。小論文の書き方を理解するのに役立つでしょう。

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3-3. 知識のインプットに使える

-大田先生:
知識をインプットしたい人、社会科学系の学部に行きたい人には、公民科目「公共」の図説『公共ライブラリー』(清水書院)もおすすめです。学校の授業で使われる資料集ですが、最新の社会問題に触れられているので、旬な情報を得るのにもってこい。
文学系に進みたい人には、課題文でよく出てくる現代思想について図説されている『哲学用語図鑑』(プレジデント社)も良いです。かわいいテイストのイラストが豊富で、見ていて楽しいですよ!

小論文対策に役立つ参考書にも色々と種類があるのですね。自分がどんな目的で使いたいかによって選ぶのが良さそうです。勉強になりました!
――大田先生、貴重なお話をありがとうございました!

4. まとめ

小論文対策のプロ・大田先生に、勉強法のコツやおすすめの参考書などをうかがいました。
「小論文ってなんだか難しそう」「捉えどころがない」といったようなイメージが先行しがちですが、「事実に対する自分なりの解釈を持つことが重要」という点は、実は「大学の学び」にも通じています。
大学に入学すると、レポート課題などで自分の意見を数百〜数千字の文章で述べる機会が多々あります。高校生の頃に出されていた「一問一答」の問題は少なく、「自分なりの答えと、そこまでの思考プロセス」が問われる――そう考えると、受験科目の中では、ある意味〈小論文〉が大学での学びに1番近い存在なのかもしれません。
「自分の意見を持ち文章にまとめること」はすぐにできるようになることではありませんが、受験生のうちから訓練しておけば、大学生になっても必ず役に立つと思います。
ぜひ、大田先生のお話を今後の小論文対策や大学での学びに役立ててくださいね!

*小論文対策についてはこれらの記事も参考にしてください!
>>【厳選】現代文・小論文参考書の「使い方レポート」傑作セレクション
>>大学入試の小論文対策に悩む人必見!勉強法のヒントとおすすめ参考書

◇聞き手:StudiCoサポーター Y.T.(お茶の水女子大学 文教育学部)

大田 裕二先生
河合塾 国語・小論文科講師。愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒。中高一貫校の国語科専任教諭を経て、現職。中部地区で人文・教育系小論文および医・自然科学系小論文を担当。教員経験を活かし、高等学校にて総合型・学校推薦型選抜対策の講演や医系進学希望者向けの出張講義、直前期の個別レッスンも行う。共著に『小論文問題集』(河合出版)がある。YouTubeでチャンネルも開設し、全国の受験生と交流している。